眼内悪性リンパ腫の診断と治療
2-1 眼内悪性リンパ腫の臨床像
眼内悪性リンパ腫は、眼あるいは脳に原発して眼に進展する原発性眼・中枢神経系悪性リンパ腫(82%)と、
その他の臓器原発の悪性リンパ腫が眼球内に進展する二次性眼内悪性リンパ腫(18%)の
2つのタイプに分類されます。
前者はその後も眼内のみに留まるもの(14%)と、脳中枢神経系に播種するもの(68%)があり、そのため60-80%の症例では、診断時またはその後数年以内に脳中枢神経系悪性リンパ腫を発症してしまうことが問題です。
眼内悪性リンパ腫で現れる眼の症状は、霞み目、充血、視力低下です。他覚的な眼所見としては、硝子体混濁(91%、図2-1)、網膜下浸潤病変(57%、図2-2)、虹彩炎(31%)などを呈します。硝子体混濁とは、眼球内を満たすゼリー状の組織である硝子体にリンパ腫細胞が多数絡みついて混濁した状態で、視力が低下します。また、網膜病変は、多数の黄白色の斑状病変で、眼底の断層検査では網膜の波打ち像として観察されることが多いのが特徴です(図2-2)。
図2-1 眼内悪性リンパ腫の硝子体混濁
図2-2 眼内悪性リンパ腫の網膜病変
2-2 眼内悪性リンパ腫の診断について
眼内悪性リンパ腫の診断には、眼内液をとって悪性細胞がないかを調べる検査が必要です。
1週間程度入院して、硝子体手術と呼ばれる30-40分の手術で眼内液を採取して検査します。
診断のために行う眼内液の検査には、①細胞診(悪性細胞かどうか顕微鏡で調べる)、
②IL-10,IL-6濃度測定(眼内悪性リンパ腫ではIL-10という物質が高くなる)
、③IgHモノクローナリティー検査(1種類の細胞が増殖しているのかどうかを調べる検査、
悪性細胞かどうかが分かる)、④フローサイトメトリー(FACS)によるγ鎖・λ鎖の陽性率、
などの方法があります。①細胞診は、古くから最も信頼できる検査法と考えられてきましたが、
30~40%の取りこぼし(偽陰性)が出てしまうことが分かっています。
そのため、より信頼度が高いとされる②~④の検査も施行することが推奨されます。
これらのうち幾つが陽性ならば眼内悪性リンパ腫と診断すべきなのかについては、
現在のところ明確な答えが出ていません。東京大学附属病院眼科では、
①が陽性であるか、もしくは②~④の3項目中2項目以上陽性の場合に眼内悪性リンパ腫と診断し、
3項目中1項目のみ陽性の場合は疑い例としています。
2-3 眼内悪性リンパ腫の治療
眼内悪性リンパ腫に対する治療法は、眼局所治療や化学療法、放射線治療などが試みられているが、未だ標準治療は確立されておらず、血液学会や米国のNCCNのガイドラインもない状況である。東大病院では、これまでに眼内悪性リンパ腫に対して、メトトレキサート(MTX) 眼内注射10回+R-MVP療法 5クール+低線量全脳照射(23.4Gy)+HD-AraC2コースの臨床試験を行い、中枢再発を抑制し予後を改善させた。
①眼局所治療
1)眼局所放射線治療
対向2門照射で35-40Gyを1回2Gy以下に分割して眼球および視神経管も含め照射することで、高い寛解率(87%)が得られ、放射線網膜症は起こりにくく、現在でも第一選択となりうる治療である8)。しかし、放射線治療のみでは再発率が高く、特に脳病変が出現すると生命予後は非常に悪くなるため、近年は高齢者で全身化学療法が行えない場合や化学療法と組み合わせて選択されることが多い。 (Isobe K, et al. Leuk Lymphoma 2006, Ferreri AJ et al. Ann Oncol 2002)
2)メトトレキサート(MTX)硝子体注射
MTX硝子体注射(400μg/0.1ml硝子体注射週2回を1ヶ月、週1回を1ヶ月、月1回を9ヶ月間)行った報告がされている。IOL26例44眼にMTX硝子体注射を行った。95%の症例は13回以内の注射により眼内病変の寛解が得られた。54%(14例/26例)は脳中枢神経系リンパ腫あるいは全身悪性リンパ腫のため初回注射から17ヶ月以内に死亡した。(Frenkel S, et al. Br J Ophthalmol. 2008)
②局所治療との化学療法・放射線治療の組み合わせ
1)眼局所放射線治療と化学療法の組み合わせ
MD Anderson Cancer Centerでは、眼放射線治療と化学療法(R-MPV+HD-AraC)を組み合わせて治療を行った。中央値4.2年で64%の患者が、再発し進行した。中枢浸潤再発は53%に認めらており、中枢浸潤の抑制は十分ではなかった。 (Cheah CY et al, Neuro Oncology 2016)
2)MTX眼内注射+化学療法+全脳予防照射
東大病院では、眼内悪性リンパ腫に対して、メトトレキサート(MTX) 眼内注射10回+R-MVP療法 5クール+低線量全脳照射(23.4Gy)+HD-AraC2コースを臨床試験で行った。眼内悪性リンパ腫の4年無病再発生存率を72.7%、中枢再発10%と中枢再発を抑制し予後を改善したことを報告した。(Kaburaki et al. British Journal of Haematology 2017)
詳細は以下に説明
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/a_00599.html