これまでの成果と今後の取り組み

3-1 これまでの成果

①眼内悪性リンパ腫に対する前向き臨床試験(UMIN000007821)

 眼内悪性リンパ腫では脳への播種が高率に起きることが問題となっており、眼内病変が発生してから29ヶ月以内に65-80%の症例で脳播種を起こします。そのため、眼内悪性リンパ腫は眼の病気の中でも最も生命予後の悪い病気とされています。本研究グループは、75才以下の患者の眼内悪性リンパ腫に対して、眼球内注射(メトトレキサートを注入)、全身化学療法(リツキシマブ、メトトレキサート、ビンクリスチン、プロカルバジン、シタラビンを投与)、および予防的な低線量の全脳放射線照射を組み合わせた治療法を行うことで、脳播種を4年間で12%にまで低減できたことを報告しました。本研究により積極的な全身化学療法・予防的放射線療法がこの病気の予後を大きく改善する可能性が示されました。 (Kaburaki et al. British Journal of Haematology 2017

図3-1 前向き臨床試験結果
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②2次性眼内悪性リンパ腫の臨床的特徴と治療成績の解析

 眼内悪性リンパ腫は中枢浸潤が多く、これまで中枢性悪性リンパ腫の一亜型と考えられていた。今回の研究では、眼内悪性リンパ腫71例の臨床経過の解析を行い、中枢性悪性リンパ腫の一亜型とは異なり脳中枢神経系以外の臓器から眼内病変に進展する二次性眼内悪性リンパ腫が28%認められること、及び、二次性眼内悪性リンパ腫の臨床的特徴及び詳細な進展形式を初めて明らかにした。また、二次性眼内悪性リンパ腫が短期間で度々再発しやすく予後不良であり、脳のみならず、眼や全身に進展することを明らかにした。(Karakawa et al. British Journal of Haematology 2017)


3-2 現在の取り組み

①眼内悪性リンパ腫に対する診断(UMIN000007821)

 眼内悪性リンパ腫は、細胞診しかできないことがあるため病理診断が非常に困難な場合も多く、診断自体が非常に困難であった。東大眼科のグループでは、細胞診だけでなく、IgHクローナリティ、IL10/IL6およびフローサイトメトリーによる検査を組み合わせることで診断を行っている。

②眼内悪性リンパ腫の遺伝子検査

眼内悪性リンパ腫では、MYD88を含むいくつかの遺伝子の異常が認められている。当院を含む多施設の協力を得て、眼内悪性リンパ腫の遺伝子変異の検査を行っている。(基盤C 田中理恵)

③眼内悪性リンパ腫に対する医師主導多施設共同治験の取り組み

現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の平成30年度「革新的医療シーズ実用化研究事業」に採択されており、治験のためのプロトコール作成中である。

日本医療研究開発機構

④眼内悪性リンパ腫の患者の会との意見交換

眼内悪性リンパ腫の患者と家族らと、2018年11月23日に眼内悪性リンパ腫の患者会を行った。医師と患者と意見交換を行った。

⑤眼内悪性リンパ腫の治療を考える会(班会議)

2018年10月11日に行い、全国の眼科及び血液内科の医師が集まり眼内悪性リンパ腫の治療を考える会(班会議)を開催した。現状と今後の治験についても話し合った。